はりねずみ通信
2017.01.23
1ミリずつ
私がもっとも好きな指揮者は、ヘルベルト・ブロムシュテットである。NHK放送交響楽団の指揮もしているので、ご存じの方もおられるかもしれない。
学生時代に彼のベートーベン交響曲全集を買って、数え切れないほど聴いた。推進力のあるリズム感、大げさになりすぎない端正な表現がすきだった(カラヤンやアバドなどの劇的な演奏とは対照的だった)。当時、彼はすでに還暦に近い年齢だったはず。
現在は89歳なのだそうだ。昨年行われたドイツのハンベルク交響楽団との来日公演の演奏やインタビューを聞いた。その元気さにびっくりする。
インタビューによれば、ベートーベンの研究が進み、近年新しい版が出版されたとのこと。それによると、今までの演奏より、テンポが速くなるそうである。自身でスコアを再解釈し、新しい演奏を聴かせてくれた(昨日のテレビでは「田園」と「運命」が演奏された)。
私が学生の時に聴いた演奏と比べ、確かにテンポは早かった。そして、オーケストラの音色はより肉厚になり、持ち前のリズム感はより生命力を増している。明らかに進化しているのである。
インタビューの言葉が印象的だった。
「若い頃は、先人たちの演奏に影響され、理想を求めて演奏していました。理想にとらわれるのは、若さの印です。年齢を重ねると、理想に縛られることがなくなり、より自由になるのです」
私は、彼の言う「自由」という言葉を、本当の意味では理解できていないかもしれない。それでも、年齢を感じさせない話しぶり、実際の生命力が溢れる演奏を聴くと、何かから解き放たれたような生き方に憧れる。
理想との狭間で苦しんではいても、それがあるからこそ自由になれるのだろうか。
だとしたら、1ミリずつでも進んでいきたい。そう思った。
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