はりねずみ通信
2018.01.19
TTA(頸骨粗面前進化術)
膝(ひざ)内部には、大きな二つの靱帯がある。
前十字靱帯と後十字靱帯である。
「膝は蝶番(ちょうつがい)のようなもの」とよく言われるが、ほんとうはそうではない。二足歩行のロボットが、簡単に転んで立ち上がれないのは、膝の複雑な動きが作り出せないことによる。
歩いたり、走ったり、正座をしたり、踊ったりするとき、膝は前後方向だけではなく非常に複雑な動きをする。それを担うのが十字靱帯である。
文字通りクロス型になっていて、膝の精巧な動きを支える。
体重の負荷が最もかかる関節なので、強靱さが必要だが、柔軟さもいる。それを見事に兼ね備えているのを見ると、ため息が出そうである。たまに切れることがあっても責められない。普段すごくがんばっているのだ。
動物(特に犬)では、前十字靱帯が損傷しやすい。
中高齢以降の犬が後ろ足を挙げて、負重がかけられない。1週間以上治療しても、改善しない。
電話でそれを聞いて診察してみると、85%以上は前十字靱帯断裂である。
診断は触診でほぼ可能である。関節が不安定で、下腿骨が前方へ移動する(ドロアーがある、という)のは、非常に重症の場合。
ドロアーがないときのほうが多いのだが、見逃されることが多い。レントゲンでは診断がつかないこともある。
確定診断は関節鏡検査で行う。
私が今行っている治療法は、TTA(頸骨粗面前進化術)という手術である。
麻酔をかけ、関節鏡検査で確定した後、関節鏡下で切れた十字靱帯をきれいにし(シェーバーという機械で刈り込む)、そののち下腿骨の骨切りを行ってインプラントを入れる。
どういう目的でそれをするかを書くと、すごく長くなるので、「切れた十字靱帯は修復できないので、膝の力点を変更する手術」とだけ言っておく。
Bちゃんは山に行って高いところから飛び降りたのか、飼い主さんのところに戻ってきたときは後ろ足を跛行(はこう)していた。関節鏡では前十字靱帯が完全断裂していた。
写真はTTAの術前計画(どれくらい骨を移動させるかあらかじめ計算する)と術後のレントゲンである。
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