はりねずみ通信
2017.10.30
JAHA流TEDトーク
JAHA(日本動物病院協会)から招聘を受け、昨日東京大学で行われた年次大会でスピーチをした。
8分間で自分の夢や、今取り組んでいることなど、「広める価値のあるもの」を話してよいという。
TEDとは、テクノロジー・エンターテイメント・デザインの略である。
私が話したことは(スライド順)、
・「みなさん、時折思いませんか?大きな手術をしたあと、入院室に横たわる動物を見たとき。自分は動物を助けるために獣医師になったのに、どうして動物を傷つけなければならないのか」
・ある獣医師はこんなことを言いました。
「私は時々こんな夢を見ます。胴体がない犬が、血の海を泳ぎ私に助けを求めて泳いでくるんです」
つまり、獣医師は日常意識していないけれど、心の中は傷ついているのです。
・私の子供の頃の写真(姉と一緒に写っている)をスライドに出す。
これは私と姉です。二人とも獣医師になりました。小さい頃のエピソードを紹介しましょう。
私が中学生の時、屋根から落ちたスズメの雛を一生懸命世話していました。結局その子は亡くなったのですが、悲しんでいる私のところへ姉が来て言いました。「亡くなった原因を調べた方がいいから、解剖する」
私は臨床獣医師、姉は免疫学の研究者になりました。
・文鳥と折り紙の写真をスライドに映す。
私は小さいときから鳥が好きで、文鳥やセキセイインコを飼っていました。また男の子なのに折り紙が好きで、よく折っていました。写真は中学の時、文化祭で折り紙展を行ったときのものです。
・あるとき飼い主さんが言いました。
「もうこんなことはこりごりです」
ポメラニアンの胆嚢摘出術を行い、元気になって退院するときに言われた言葉です。治ったのに、どうして?と思いました。
けれど、飼い主さんは動物を傷つけたことに、とても心を傷つけていたのです。
・内視鏡外科(腹腔鏡下胆嚢摘出、乳び胸の手術)PLDDの動画を映す。
それを機に、低侵襲治療に取り組みはじめました。これが今行っている治療です。
・もちろん、これは動物や飼い主さんのためです。
でも私は気がついたのですが、動物を低侵襲に治療すると、獣医師の心の負担も大きく軽減するのです。
・でも、ここで問題が生じます。
ひとつは小型の動物にこれらの手術をすることが、技術的に非常に難しいこと。
もう一つは、外科医の寿命という問題です。
ばりばり手術できるのはだいたい50歳くらいまで、といわれます。ちなみに私は52歳です。
・「腹腔鏡折り鶴」の動画
これは腹腔鏡のトレーニングボックスで折り紙を折っているところです。小さいときの趣味が、こんなところに生きています。これで技術を高めようと思っているわけです。
・「はりねずみ体操」の動画
これは私が考えた運動法です。
これで外科医の寿命を延ばそうという魂胆です。
・このなかで、40歳以上の方はおられますか?
今まで培った外科スキルをさらに高めるチャンスです。腹腔鏡の拡大視野でみて行う手術は、さらに精密な手術を可能にします!また(私もそうですが)老眼対策にも(笑)。
・40歳以下の方?
そこで座っている場合ではありません!いますぐ、低侵襲治療をはじめましょう。
私は40歳過ぎてからスタートしたので、ちょっと遅かったのです。
・最後は私の手術室をスライドに出し、
「今すぐはじめよう、低侵襲治療!」
3件のコメント
面白エピソ-ド満載で楽しそうですね。
先日待合で泣きながら帰宅されるご家族をお見かけしました。自分の不安さと相まって沈んだ気持ちで診察室に入りました。
そこには変わらない柔らかな笑顔の先生がおられました。プロだな、流石!と思っていたのですが、当たり前ですがやはり心は傷ついておられるんですね…
高校時代、獣医師になりたいと思った時期がありました。最近メンタルの弱さを痛感する場面が多く、今更ながら自分には無理だったと納得。ま、それより先に学力が問題だったかな (>_<)
ミルクママさん、私もメンタル面は決して強くはありません。そういう獣医師の先生も多いので、今回のスピーチは共感していただけたようです。
学会発表とは違った感じで、よい経験でした(^^)
先生の沢山の思いが詰まった8分間のスピーチのお話を読んでとても感動しました。飼主だけでなく、手術をする獣医さんも心が傷ついていたのですね。
お腹の傷などでも、大きく開腹するより小さい傷で済む腹腔鏡下手術や低侵襲の治療などの方が飼主の心の傷も小さくすみますね。
避妊手術でも手術の重要性は、理解しててもお腹が痛くもないのにお腹を切ることに抵抗がある人には、小さい傷で済む腹腔鏡下手術の選択肢などができるのは、救いだと思います。
外科医の寿命の事は悲しくなりますが、もっと低侵襲などを普及して、先生にはもっと沢山の人や動物を救って長く医療に携わって頑張って欲しいと思っています。^_^
まきあさん、自分は手術を受けることができても、動物には受けさせたくない、という方はとても多いです。
その気持ちは本当によくわかります。でも、その先のことを考え、勇気を持って進むために低侵襲治療は役立つと思うんです。
「寿命」はまだまだあると思いますよ(*^^)v
こんにちは(*^^*)
独立?してから始めて、自分の責任で一緒に暮らしたわんこに、私のミスで大怪我をさせたことがあります。
保健所で出会ったハスキーミックスの子でしたが、ムクムクと太ってきて(これも私のミス)ダイエットさせようと、ボール遊びを始めました。
その日の夜の公園は所々凍てついてました。
いつものようにボールを投げてダッシュ…
私はアキレス腱を断裂し、愛犬は十字靭帯を断裂しました…
人間はギブスなのに、愛犬は手術。
お迎えに行った時、獣医の先生に
「かなり痛々しいけれど、驚かないでくださいね。ちゃんと繋がりましたし、日にち薬で元どおり歩いたり走ったりできますからね」
と聞いていたのに、後脚を開きにし、また縫い合わせたような傷跡に、倒れそうになりました(>_<)
もう昔々の思い出でですし、十字靭帯断裂は今でも同じ手術なのかもしれませんが、確かに精神的にかなりきますね(T-T)
傷を痛がって切なげな声で鳴くのもツライです。
ノームの手術、あれだけ広範囲(私にすれば)なのに、術後が全く違っていて新鮮な驚きでした。
手術のために剃った所も、愛犬が痛がっているとツライですが、痛がっていないと
「魚肉ソーセージや〜」って笑えました(←最低飼主 笑)
『痛み』が少ないって本当に有難いなってつくづく感じました。
コバシさん、大変なことがあったんですね。
傷が小さい手術ばかりではないですが、できるだけ動物の負担が少ないのが一番ですよね。