はりねずみ通信
2017.03.21
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アリや蝶には、難しい病気はない。そう思われている。
本当だろうか。
哺乳動物に比べ体の構造はシンプルである。大きな脳もないし、骨のような強い骨格もない。
しかし、消化器官は発達しているし、危険を察知するための神経系も非常に鋭敏である。アリは自分の体の何倍もの餌を運ぶし、蝶は海を越える飛翔力もある。
おそらく様々な病気は存在するが、私たちがそれを知らないだけではないか。
同様に、動物には人間ほど病気はない、と思っている方も多い。
「人間と暮らすから、人間並みにいろいろ病気が出てきたのでは?」
と言われる人もいる。もちろんそれも一理あるが、それだけではないと思っている。つまり、アリや蝶に病気がないと考えるように、認識されていないだけ、なのではないか。
たとえば、小型犬には膝蓋骨脱臼という病気が多い。
膝の「お皿」が外れ、歩行に障害が起きる疾患である。ところが、このような病気を持っていても、犬は比較的普通に歩行する(ように見える)ことが多い。四つ足歩行のなので、前肢に負重をかければ、うまく歩けるのである。あまり臨床症状を呈さないケースも多いので、動物病院を受診しても「様子を見てください」と言われることもあるようだ。
ところが、膝蓋骨脱臼の犬の膝を関節鏡で丁寧に観察すると、驚くような状態になっていることがわかる。
滑膜炎はほぼ100%、軟骨損傷、十字靱帯の血管新生や部分断裂、半月板損傷などが高率に存在する。
一度人間の関節鏡機器メーカーの方に、動物の関節鏡動画を見せたところ、
「これで歩いているんですか?」
と、とても驚いておられた。人ではそんな関節ではとても歩けないのだそうだ。
このように、認識されていない(されにくい)病気は、実はたくさんある。
十分な問診をとり、注意深く観察し、丁寧に触診して、「見つけていこう」というベクトルがないと見過ごしてしまう。肉眼では見えないこともある。
まだ知り得ぬ病気もあるかもしれない。
病気がないのではなく、見つけることができていない、という気持ちで診察していきたいと思う。
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