はりねずみ通信
2018.01.10
本当の目的
94歳のピアニスト、メナヘム・プレスラーのことを以前に書いた。
先日、彼が来日したとき行ったマスタークラスの様子が放映されていた。若手の音楽家の教育に熱意があり、来日したときは日本の若者に是非ピアノを教えたい、と本人が希望したのだそうだ。
マスタークラスのとき、ピアニストの音の出し方(タッチ)が強い、と指摘していた。
「鍵盤を指で撫でるようにして、音の始まりを作ってください」
そういったことを何度も繰り返させ、音を繊細に扱うことを伝えていた。
しばらく続けた後、こんなことを言った。
「私は世界中のピアニストを指導してきたが、テクニックが優れている人は大勢いる。けれど、音楽を伝えようと弾いている人は、本当にわずかだ」
多くの人は、音楽が好きでピアノをはじめるのだろう。
ところが、テクニックを磨くことに夢中になったり、だれかよりも上手に弾くことが目的になる。作曲家が作った美しい曲を聴く人に伝える、という音楽本来の目的が希釈されていく。
私は自分も楽器を演奏していたことがあるので、なんとなくわかる。
これは獣医医療においても言えることである。
純粋な気持ちでやっているつもりでも、「難しい病気を、自分の力で治そう」「他施設よりもよい治療成績を出そう」「珍しい症例を学会で発表しよう」という考えに、しらずしらず置き換わることがある。
また、施設を維持し、スタッフの雇用を考え、経営的にも成立させなければならない。それも大切なことではあるが、目的ではない。
本当の目的はなにか。そんなことは自明であるはずだが、日々あらためて問わなければどこかへ飛んでいってしまう。
そういう弱い者であることを自覚したいと思う。
金剛水の募金について、郵便局での振り込みに「記号番号」が抜けていました。
下記に記載します。引き続き、ご協力をお願いします。1月末まで受け付けます。
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