はりねずみ通信
2015.09.15
忘れないこと
今まで生きた中の約半分くらいの時間を、獣医師として過ごしている。だから、間違いなく経験値は積まれているわけである。
逆から見ると、経験値が今より少ない過去は、今よりも未熟だったはずで、私の未熟な治療を受けてきた動物たちがたくさんいることになる。誤解を恐れずに言えば、私はそういった動物の「犠牲」のもとに、今の技術を得ていると言える。
だから、治療がうまく行ったからといって、手放しで喜んだり、自分の能力に自惚れるのは慎まなければならない。今日の私の手術がうまくいったとすれば、それはうまくいかなかった過去を何度も何度も修正してたどり着いた結果なので、自分が未熟だったころ(すなわち、今より過去はすべて)に手術した動物たちに、謝らなければならないだろう。つまり、今日、生涯で1万回目の手術をしたとすると、9999匹の動物たちを思い出さなければならない。
ところが、こんな至極当たり前のことを、私は簡単に忘れてしまう。
治療がうまくいったら、単純に喜び、うまくいかなかったら忘れようとする。そうしないとやっていけない、という面もあるが、自分にそれを許してはいけないだろう。
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