はりねずみ通信
2016.03.02
医療経済
日本は、人間の医療では国民皆保険、である。
これは世界に誇る制度ともいえるが、人間のお医者さんの話を聞いていると不自由な面も多いようだ。
たとえば、最先端技術であるロボット手術をする場合。
近年、ダヴィンチという手術ロボットが取り入れられ、前立腺の手術で保険が使用できる。
尿道などの縫合に手のように動くロボットは、とても有用である。術者が1センチ手を動かすと、先端は1ミリ動く。手の震えを補正してくれる。患者の呼吸による臓器の動きも、モニター上で動きがないように補正されるので、今までできなかった細かな手技ができるようになった。
前立腺の手術以外にも利用は進んでいるようだが、保険が効かないため全額自費になってしまう。そこに、「保険の制約」という事実が存在する。
さらに、こんなことも聞いた。
他の内視鏡手術と組み合わせると、一番難しいといわれる縫合の時にはロボットが威力を発揮する。だから組み合わせて使うのがもっとも理想だが、そうすると普通の手術では使用できる保険が使用できなくなる。いわゆる混合治療になるためだ。そうなると、治療すべてに保険が効かなくなってしまい、患者さんは全部自費で支払わなければならない。
つまり、医療は保険に制約されている。
極論を言うと、医師は患者さんに最高の治療を行おうと思っても、できないケースがある。
お医者さんは保険制度によって、手枷足枷(てかせあしかせ)をされている、ともいえる。
動物医療は「皆保険」ではない。それを自由診療という。
我々は、動物に最高の治療をしようと思ったときに発生するコストの問題を毎日必死で考えることになる。あまりに高額な治療費では、動物を治療することをあきらめる人が出てくるので、適正な価格にしなければならない。そこに経済の「見えない手」が存在し、施設内の合理化を促したり、さまざまな工夫を生み出す圧力になる。
最終的には、獣医師の倫理観や経済観により医療が行われるので、人の医療のような保険による制約はない。実はそれが獣医医療の強みでもある。
適正な獣医医療が行われるために何より大切なことは・・。
それは、獣医師が「きちんと動物の治療を行っていきたい。飼い主さんに幸せになってほしい」という動機である。
だから医療経済を考えるとき、獣医師の倫理観だけにフォーカスを当てればいいのだ。
キューバの医療費は基本的に無料か、きわめて低額である。
そのため、医師の倫理教育に非常に力を入れているそうである。そうしないと、野放図に医療コストが増大するからであろう。
医療費を適正にするには、制度で縛るのではなく、経済も含む倫理教育を充実したほうがいい、と昨今は考えている。
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