はりねずみ通信
2018.06.23
信じていただくこと
トイプードルが発熱していて、黄疸がある。肝酵素値は機械での測定が不可能なほど高い。
エコーを見ると、わずかではあるが胆嚢壁に特徴的な二重構造が見えた。胆嚢粘液嚢腫に起因する、急性胆嚢炎である。
飼い主さんは当院にはじめて来院された方だった。
急に具合が悪くなった理由は、なにか変なものを食べたから、と思われていたようだ。
担当医の林が画像診断の説明をしているあいだ、私は翌日の予定をチェックしていた。
その日は他府県からの依頼手術で、腹腔鏡下胆嚢摘出術が入っていた。すぐに電話し、手術を別の日にしていただいた。
その日のために、わざわざ休みを取っておられたので、はじめは残念がっておられたが、事情を話すと理解してくださった。
はじめて来院した動物病院で「手術が必要です」と言われれば、戸惑うのは当たり前である。
林から引き継ぎ、私は手術の必要性を説明したが、ほんとうにそんな手術がすぐ必要なのかと思われたようで、不安げな表情だった。
急性胆嚢炎で黄疸が出ているときに、「即手術するか内科的に沈静化を図って手術するか」また「開腹術で行うか腹腔鏡で行うか」は獣医医療の中では結論が出ていない。私は経験上、抗生物質で発熱が治まった翌日が手術に適していると思っており、炎症が強い場合ほど腹腔鏡にメリットがあると考えている。
そう考える獣医師は、もしかすると私だけかもしれない。
あとは信じていただくしかない。
よその動物病院での手術も考えたいので、1日時間をほしい。
そう言われた。
ご夫婦で相談され、昨朝、私に託していただくことが決まった。
手術がはじまると、やはりその日に手術してよかったことがすぐわかった。胆嚢動脈が梗塞し、胆嚢壁全域が壊死していたのである。週明けまで手術を伸ばしていたら、胆嚢壁は破れ、重度の胆汁性腹膜炎になっていたはずだ。そうなると、救命率が大きく下がってしまう。胆嚢管周囲の炎症も強かったので、腹腔鏡で局所を可視化して処置できるメリットも大きかったと思う。
手術が終わった夕方、飼い主さんが面会に来られた。
トイプードルのモモちゃんは、しっぽを振って早く帰りたそうである。(難しくない病気だった、と思われたくなかったので、飼い主さんには手術動画を見せて説明した)
信じていただけてよかった。
知らない動物病院に来て、すべてを任せてくださった勇気には驚くばかりである。
1件のコメント
先生、いつもお世話になっております。
この度もご対応頂き、ありがとうございました。
引き続きモカをどうぞよろしくお願いします。
信じられる、信頼できる先生方と病院にお世話になれることに、日々感謝です。
モチマさん、今朝は落ち着いた状態です。経過を見ていきますね。