はりねずみ通信
2016.04.21
五感の補正
神経病学の用語で、「固有位置感覚」というものがある。
自分の手足などが、どの位置にあるか。動物や人間はそれをいつも把握している。脊椎損傷などがあると、自分の足がどの位置にあるのか不正確になる。だから、足の甲を地面につけて歩いたりする。
先日紹介したオリバー・サックス先生の本でも、首から下の固有位置感覚がまったく失われている人の話が書かれていた。そのひとは、視覚に頼って体の位置を補正し、見かけは正常に生活できる。けれど、部屋の電気がいきなり消されたりすると、そのまま倒れてしまうのだそうだ。
このように、動物や人間は神経系と筋肉や靱帯などが密接に連絡し合い、正常な運動ができるのである。
最近ピアノを聴くことが多いが、ピアニストの固有位置感覚には舌を巻く。
目をつぶって10本の指ですべて正確な位置に指を置く。脳の中にピアノの鍵盤がマッピングされていて、自分の指先がどの位置にあるのか、正確に把握しているのである。
この固有位置感覚は、拡張することも可能だ。
自動車を運転するとき、「車両感覚」というものがある。自分の車の大きさに慣れていると、どれくらいハンドルを切ったらフェンスを避けられるかがわかる。バックで車庫に入れるとき、ぎりぎりで止めることができるのは、車の大きさが自分の脳にマッピングされていて、足先のように位置がわかるのである(むろん、上手、ヘタはある)。
腹腔鏡手術なども、固有位置感覚の拡張とも言える。
長い鉗子を使って手を伸ばし、画像はモニターを見て目の働きを補正する。それを脳で統合するわけである。
手術ロボットのダヴィンチなどは、それをさらに進めたものだ。
最近では、それをさらに発展させ、人間の五感をヴァーチャルに拡張させようという試みもある。
あらかじめ作成しておいたCT画像を、ホログラムのような装置で実際の手術領域に投影し、手術をサポートする。このようなナビゲーションの手法は、すでに脳外科などで実際に使われているそうである。
ITや最新の装置を使って自分の体を補正できるのであれば、未来は明るいのかも。
エイジングに逆らって外科医の寿命が延びる可能性がある。
こっそり考えているのは、五感を補正することにより、自分もピアノの名手になれるかもしれないということ。
でも、手が動いても、頭の中に音楽がなければだめか・・。
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