はりねずみ通信

2017.07.06

イレギュラーバウンド

胆嚢摘出術を行うとき、傷つけてはいけないのは総胆管である。
総胆管を傷つけると、胆汁が腹腔内に漏れ、術後に腹膜炎を起こす。
そのため、胆嚢から総胆管へ移行する胆嚢管周囲の剥離には細心の注意が必要と考えられている。
この部位にはさまざまなバリエーション(個体差)があるのは理解していて、いつも手術の時は慎重に対処している。

ところが、医学書を読むと、こういった部位以外に、気をつけるべきsubvesical bile ductと呼ばれる胆管が存在するという。
主たる胆管とは別に、肝臓側から直接胆嚢に入り込むものや、総胆管から分岐して胆嚢や胆嚢管付近を走行するものがあるとの記載がある。
「この特殊な胆管の存在を知っておくことで、それらの損傷を高率に予防し、損傷した場合でも適切に対処することが可能になる」
とまとめられていた。
非常にまれな病態も含め、適切に対処しようという医学のすごみを感じる。

阪神タイガースの吉田(元)監督が、先日新聞のインタビューでこんなことを言っていた。
「野手が普通の捕球や送球をするのは当たり前である。イレギュラーバウンドなど、予期しない状況に対処できるのがプロである」
これは短い言葉であるが、プロの心構えを凝縮している。

外科手術で言えば、「思いもよらない状況で難しい手術でした」というのは逃げ口上である。
当たり前でない状態でも、適切に対処できないとプロではない。

治療が成功しないとき、動物の身体に問題があるような言い訳をしてこなかったか。
医学誌を読んで、身が引き締まる思いがした。

fullsizeoutput_99c
でた

 

0件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近のコメント

2023年
2020年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年