はりねずみ通信
2017.06.22
アドリブ
たしか欧州の獣医師が講演するセミナーだったか。
講師の先生がこんなことを言った。10年以上前の話。
「動物の病気の治療は簡単です。診断さえつけば、あとは手順通り治療を進めればいいのです。料理のレシピといっしょです」
これを聞いたとき、とても違和感を覚えたのを思い出す。でも、どうしてそう思ったのだろう。
西洋医学は論理の学問である。
物事には原因があり、それを解明することにより、最善の選択ができ、もっともよい結果が得られる。
それは確かにそうなのだが、動物の治療をしていると、ロジカルに進められない場面にたびたび遭遇する。
飼い主さんの家庭の事情(頻繁に来院できない、家族の意見が合わない、など)
動物の事情(症状が重いため身体に負担のかかる検査ができない、など)
施設側の問題(他の手術と重なってしまい調整が難しい、など)
病気の名前はわかっても、そこから解決に進むために、非常に複雑なプロセスを経なければならない。
とても料理のレシピのようにいかないのである。
10年前、違和感を感じた理由は、いまでは説明できる。動物の治療には、一匹一匹の物語があり、論理で割り切れないのだ。
朝から色々な治療を進めていく。
朝のミーティングで打ち合わせた内容は、緊急の割り込みや、対処しなければならない新規の問題のため、無限に変化する。
「ジャズのアドリブみたいだね」
と、看護師と顔を見合わせる。
こう書くと「そんないい加減な」と思われるだろうか。
そうでもない。アドリブは適当に音を合わせているのではなく、ベースとなる論理が底辺に流れているのだ(と、思いたい)。
80kgを超える犬の予防的胃固定手術が終わったあと。入院室に搬入する手順を相談中。
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