はりねずみ通信
2017.02.06
よりよく生きる3
Kさんご夫婦は、とても仲がよい。
フレンチブルのブルちゃんと、ミニチュア・ダックスフントのラブちゃんを飼われているが、とても大切にされていて、いつもお二人で来院される。
今、ご夫婦の一番の心配は、この2匹が癌を患っていることである。
ブルちゃんは、多中心型リンパ腫で寛解中である。半年の化学療法の後、いまは安定している。
ラブちゃんは昨年末、心臓にできた腫瘍から出血し、心タンポナーデになった。
心臓には心膜という膜がある。心臓腫瘍から出血を起こすと心臓が圧迫され、急性の心不全が引き起こされる。ラブちゃんは、庭に出たあと、大きな声を出して倒れ来院したが、緊急的に心膜穿刺を行い血液を吸引することで一命を取り留めたのである。
その後精査すると、右心房と脾臓に腫瘍が存在し、右腎臓には腎嚢胞があったため、年末に胸腔鏡下心膜切除と腹腔鏡下脾臓摘出・腎嚢胞の嚢胞切除を行い、今も元気にしている。
心臓の腫瘍は切除できることは少ない。けれど、心膜の一部を切除しておくと、出血によって短時間のうちに引き起こされる心不全を回避できるのだ。病理検査の結果は、血管肉腫であった。
血管肉腫の予後(すなわち経過)は、よくない。発見された時点で、全身に転移が見られることが多いからである。けれど、心臓の腫瘍から再出血すると、すぐに命に関わるため、Kさんご夫婦と十分相談したのち、このように治療した。
この場合は、治療の目的が治癒ではなく、すこしでもよい予後が得られるための選択、ということになる。
(ラブちゃんの手術をしているあいだ、お二人は家で抱き合いながら無事を祈っていたと、あとで聞いた)
このようなとき、動物への侵襲(身体への負担)が少ない内視鏡外科は、とてもメリットが大きい。
予後が悪いと予想される動物に、開胸手術と開腹手術を同時に行うことに比べ、本当に小さな傷で手術できるからである。脾臓を取り出すのに必要な傷以外は、5mm程度の傷5ヵ所でこれらを完遂することができた。
ここにこれを書くのは、「こんなことができる」と自慢する意味ではなく、こういった選択肢があることを知って欲しいと願うからである。
なにより、決断されたKさんご夫婦の勇気を、心から讃えたいと思う。
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