はりねずみ通信
2016.06.19
まぼろしのスピーチ
昨日から、麻酔外科学会のため埼玉県大宮に来ている。
昨年、北海道で行われた同学会で発表した「開腹下胆嚢摘出術21例と腹腔鏡下胆嚢摘出の51例の比較検討」がアワードで受賞したので、昨夜表彰式があった。
やっぱり認めてもらうのは素直にうれしいので、これを読んで下さっている方と共有したい。
内視鏡外科が市民権を得るきっかけになれば、と思う。
もしかして「ひとこと、お願いします」と言われたら答えようとして言うことを考えていた(自意識過剰・・)。
実際は表彰状を授与されて終わりだったのだが、こんなふうに話そうと思っていた。
今回の麻酔外科学会では、外科系の発表77題のうち、内視鏡外科関連は6題です。
私が内視鏡外科をはじめたのが、いまから10年前。ある先生が、腹腔鏡下の肝臓細胞診のレクチャーをしていて、その美しい画像に強烈なインパクトを得たことがきっかけです。
人の医学では、これらの手術がごく普通の方法として行われていることも知りました。
今回アワードを受賞したこの研究を通じて、はっきりわかったことがあります。
それは、人の医療でなぜこれほど内視鏡外科が普及したのか、ということです。
人で、はじめて内視鏡外科が行われたのが1990年。いまから26年前です。
腹腔鏡下胆嚢摘出が最初でした。
当初は、多くの外科医が懐疑的だったとききます。
「普通に行える手術を、どうしてそんなに難しい方法で行うのか?」
それが、今では胆嚢摘出術の8割以上は腹腔鏡で行われていますし、多くの難易度の高い手術も内視鏡外科が取り入れられています。手術成績も向上し、肺がんの手術は開胸術より胸腔鏡下手術のほうが生存率が高い、という遠隔成績も出ているそうです。
どうして、医学でこれほど内視鏡外科が発展したのか?
それは身体に負担が少ない、という患者さんからの要請が一番ですが、「外科医自身の要請」も大きかったと思います。
手術する部位をモニターに拡大し、よい視野でより精細な手術ができる。
それが、外科医の背中を押したのは、間違いありません。
もうひとつあります。
私が内視鏡外科に出会った10年前、はじめて人の医師(亡くなりましたが、山形基夫先生)に習ったとき、強く印象に残ったのは、「内視鏡外科は開かれた医学である」ということです。
手術動画を記録し、だれもが見ることができる。そのことで、技術がオープンになり、手技のディスカッションが可能になりました。山形先生のレクチャーや実習から、そういった開かれた雰囲気を感じ、わたしはますます内視鏡外科に引きつけられました。そういった開かれたスタンスが、人の医療を進めたことは疑いないでしょう。
現在の獣医学ではどうでしょうか?
まだまだ、市民権を得るには遠いように思います。
動物は小さい、手術が難しい、お医者さんは優秀だからできる・・など、なかなか普及しない理由は並べられます。
でも、それは「心の壁」なのではないでしょうか。
できないと思う心が、できなくする。
私にもできたのです。
麻酔外科学会の会員のみなさんは、全国から選りすぐられてきたような方たちばかりです。
臨床獣医師には2種類の人間しかいません。「内視鏡外科をやるか、やらないか」です。
いまやらねば、10年後にもゼロのままです。
学会が終わってすることは、カールストルツかオリンパスに電話することです(ここで笑い・・のはず)。
こんなに話す時間、くれるわけないか。
3件のコメント
受賞おめでとうございます
先生の絶え間無い努力に感動と脱帽です
いつも 前向きな姿勢のお話に 出来ていない私は 反省ばかりの毎日です
ブログを読ませて頂き 自己啓発をせねばと 毎日楽しみにしています
また明日から 頑張れそうです(^o^ゞ
アキパパさん、ありがとうございます。
基本は前向きですが、突っ走る傾向にあり良し悪し、ですね^_^;
でも、はりねずみ通信を読み元気を出してくださるのなら、とてもうれしいです。
金井先生、受賞おめでとうございます!
頑張っておられる事が周りに認められるのは、本当に嬉しいですよね。
でも、スピーチがなかったのは少し残念でしたね(笑)
まだあまり開拓されていない道を進むのは、とても大変で勇気のいる事だと思います。
PLDDの手術もそうですが、自分が信じた事をやり続けている金井先生はすごいです。
「プロフェッショナル」っていう、いろんな仕事のプロフェッショナルを紹介するテレビ番組知っていますか?
私は好きで良く観ているんですが、金井先生なら出られるよな〜、いつか出て欲しいな〜と、いつも勝手に妄想しています(笑)
ジュディーさん、ありがとうございます。
テレビに出ることはないと思いますが(^^)、プロフェッショナルな仕事をしたいと思います。
読んで下さりありがとうございます。
受賞おめでとうございます。
まぼろしのスピーチ ちょっと難しかったですが 読み終えて拍手しました(笑)
はりねずみ通信で いろんな賞を受賞されているのは知っていましたし 先生がPLDDを広めるために 出張で手術に出かけられたり 前向きな姿勢は ぼ~っと毎日過ごしている私は刺激を受けています。
知り合いが かない先生って 日本で10番の指に入るらしいよ~!って
凄いのは知っていましたか゛… いつもネットって調べていろいろ質問したり 失礼な態度で申し訳ございません(*_*;
これからもお世話になります。
がくさん、偉くも何ともなく、ずっとそのままですが、何かを発信することがとても大事だと気がつきました。
湖面に広がるさざ波のように、そういったことは響いてゆき、また自分にも返ってきます。
ちょっとした勇気があれば、どんな人にもできることだと思います。