はりねずみ通信

2017.11.13

ブロムシュテットの新境地

先週末、東京のサントリーホールで行われたライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮の演奏会へ行ってきた。
ライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団は創立250年以上、ブロムシュテットは90歳。この組み合わせでどんな音楽が奏でられるのか、とても楽しみにしていた。
特に注目したのが、ブルックナーの交響曲7番である。

私はブロムシュテットさんの演奏をはじめて聴いたのは大学生のときである。ベートーベンの交響曲全集(シュターツカペレ・ドレスデン交響楽団)をすり切れるほど聴いた。一言で言い表すのは難しいけれど、淡々としていながらも推進力のあるリズム、決して派手にならない節度と統制のある演奏。それがブロムシュテットさんの持ち味である。旧東ドイツのシュターツカペレ・ドレスデンだから、ではない。学生のときに名古屋公演で聴いたクリーブランド管弦楽団(米国のオーケストラ)で演奏したブラームスの交響曲でも、彼のスタイルはまったく同じ。それまでは「オーケストラは指揮者によって音色が変わるものではない」と思い込んでいたが、それが間違いであると教えてくれたのはブロムシュテットさんだった。どんなオーケストラでも独特の端正な音が響く。それ以来、彼の指揮する演奏には絶対の信頼を置いている。オーケストラはどこだってよかった。

近年、ブロムシュテットさんの演奏は少し変化が見られる。
昔のような端正さが減り、奏者に自由に音を響かせるような演奏になった。その結果、響きはより豊かになっている。各楽器が非常によく鳴っているので、今回の曲目にもあったシューベルトの交響曲などでは、少し旋律が埋もれてしまう感じはあった(それはそれで、新しい「味」と言えるかもしれない)。
豊かな響きが最も功を奏しているのがブルックナーではないか。オーケストラは素晴らしく鳴っていて、巨大なオルガンがホール全体を揺さぶるようだった。
そして、非常にシンプルで大らかな解釈で演奏されている。どう説明したらよいのかわからないが、ブルックナーもブロムシュテットさんも敬虔なキリスト教徒である。人間的なものを神に委(ゆだ)ねた者の大らかさ、と言ったら伝わるだろうか(私の母はクリスチャンなので、なんとなくそう感じるのだ)。私はブルックナーの音楽には、ある楽観のような、大らかな部分が必要だと思っている。
私は数え切れないほどブルックナーの交響曲を聴いたが、生の演奏で期待通りだった演奏は皆無だった。理由は、神経質すぎる、早すぎる、情緒的すぎる、金管楽器の音が悪い・・など数々あるが、ベルリンフィルでもウイーンフィルでも、よい演奏はひとつもない。
唯一、チェリビダッケが指揮した演奏のみが好きだった。
(学生のとき、チェリビダッケ・ミュンヘンフィルのブルックナー7番のチケットを買いながら、学生オケの練習日と重なったため獣医学科の友人にチケットを譲るという愚を犯した。その後すぐ、チェリビダッケは亡くなったので、生の演奏は永久に聴けなくなった。泣く泣く数少ない録音で聴くばかり)

そして、今回のブロムシュテットさんのブルックナーであるが、もう何もかも手放しで素晴らしかった。一生出会うことがないとほとんどあきらめていた「私のブルックナー」がそこにあった。
ブロムシュテットさんが生きているうちに聴けてよかった。

そして特筆すべきは、90歳である彼が今もなお進化している指揮者であるということ。
これがどんなにすごいことか、多くの人に知ってもらいたい。

 

IMG_7274
あくび

1件のコメント

  • ピアノ演奏でも聞きに行こうかなと思ってクラシックのチケット探してた時に90歳の指揮者と管弦楽団の演奏の前売りを私、見てました!管弦楽団との組み合わせってどんな演奏の感じなんだろうと思ってたんです。
    先生の感想を聞けて良かったです。
    素晴らしい演奏だったんですね。行けば良かった。
    熱く語られた後のワンちゃんのあくびは笑いました。^_^

    • まきあさん、コンチェルトもいいですよ(^^)是非聴きに行ってみてください。オーケストラの魅力にはまるかも。
      動物を連れて行けないのが残念ですが^_^;

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