はりねずみ通信

2017.12.20

外科医のともだち

大網(だいもう)というのは、胃から下方へエプロンのように腸の前に垂れ下がった膜である。
胃や肝臓、腎臓などと比べ「臓器」と呼ぶには頼りない。ぺらぺらの膜で、透けてみえるほど。
手術の時、目的臓器の前に横たわっていると「じゃまだなあ」と脇へ避けられたりする。そんな存在である。

ところが、大網は腹腔内でとても重要な役割をしている。
胆嚢や腸が破れたときなどは、そこへ覆い被さるようにしてくっつき、腹腔全体へ炎症が波及するのを防ぐ。膿(うみ)をきれいにする効果を「ドレナージ効果」と言うが、内部の血管やリンパ管を介して免疫細胞を運搬し、非常時に優秀なドレナージ効果を発揮するのである。

先日は、フレンチブルドッグが前立腺膿瘍のため緊急手術となった。
前立腺にたまった膿の袋が破け、腹膜炎を起こしたからである。
前立腺内には、いくつもの部屋に分かれた膿の袋があったので、それぞれの壁を外し、一つの部屋にする。
そしてその中に、大網を挿入して固定した。
大網のドレナージ効果を利用して、膿を排泄させるのだ。同時に去勢もした。

「大網ってさ」
手術終盤、私は助手の福嶋に言った。
普段は目立たないけど、腹腔内ですごい働きをするから、「外科医の友達」って言われているんだよ。
「へー、すごい!」

そんな人、身近にいませんか?
普段は地味だけど、いざというとき助けてくれる。
そういう人が、真の友、だと思う。

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すましふく

 

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