はりねずみ通信

2017.06.10

獣医師という仕事

動物の病気を診断して治療する、という仕事を、もう四半世紀してきた。
あらためて考えてみると、臨床獣医師の仕事(私の場合、犬や猫などの小動物臨床)は不思議である。

宇宙人が地球にやってきて、人間という生き物を観察するとする。
人間が人間を治療する医療は、容易に理解するだろう。けれど、動物病院にやってきて、人間が異種の生物を治療している光景を目にすれば、「いったい何をやっているのか?」といぶかしく思うのではないか。

人間と動物の関係は、そもそも多岐にわたる。
牛や豚などは人間が食べるものとして飼育されている。自然界に生きる動物は、あるときは人間を脅かすものであり、別の時には保護が必要な存在であったり、鑑賞するためだったり、または無関係だったりする。
その中で、人間と共に生きて、伴侶として生活する動物。それが、私の「相手」である。

よく考えてみると、時間や空間が違うと、全く成立しない職業かもしれない。
地球以外では、異種動物は補食するか、されるかのどちらかかもしれないし、地球でも時代や地域により動物に対する価値観は全く異なる。現代のように、身近にいる動物たちを大切に思う文化があって、はじめて成り立つ職業が獣医である。

昨日、私は血管肉腫が全身に転移したミニチュア・ダックスフントの脾臓を摘出した。
脾臓が破裂しDIC(播種性血管内凝固)という状態に陥ったからである。輸血をし、麻酔にも最大限の配慮をして手術は無事終わった。けれど、癌は進行し、少し先には亡くなってしまうだろう。そういうことも含め、飼い主さんと相談の上、手術を行ったのだ。
「たとえわずかでも、一緒にいたい」
飼い主さんのその気持ちがあったから、行うことのできる治療行為である。

もしかすると、動物を飼ったことのない人には理解できないことかもしれないし、違う文化では異なる対処がされるかもしれない。
私自身、10年前であればできなかった可能性がある。

動物を大切にする人がいて、私はこうやって生きているのだと、あらためて思う。

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