はりねずみ通信
2018.06.21
低侵襲治療2
低侵襲治療のもうひとつのキモは、「見えること」である。
動物への侵襲を考えるとき、よく見て手術する、ということが重要であると考えている。
たとえば犬の乳腺を切除するとき、ただ切って縫うことでも手術は終わる。
ところが、局所を拡大視して手術をしてみると、裸眼での手術がいかに雑なものか、あらためて認識する。
考えてみれば当然だが、大きく拡大すると、より正確な剥離や縫合が可能になるのだ。
組織をミクロの目でみてみると、愛護的に扱ったほうが損傷が少ないのは自明である。
先日の麻酔外科学会で、顕微鏡手術の利点を報告する症例発表があった。
会場からは、
「わたしは顕微鏡を使わなくてもそんな手術はできる。顕微鏡の利点をむやみに強調するのはどうか?」
という声があった。
それはちがう、と思った。
顕微鏡を使わなくてもできる、というのは正しいとしても、より組織侵襲を少なくして解剖学的に正確に手術できているかは別の次元である。
腹腔鏡も同様で、体の傷が小さいから低侵襲であると考える人も多いが、それだけではない。
拡大した鮮明な画像で見ることに、大きなメリットがあるのだ。
私の中で、低侵襲治療の概念は大きくシフトしている。
狭義の低侵襲治療は、
・傷が小さい
・痛みが少ない
・入院期間が短い
というものであるとすれば、新しい概念(広義の低侵襲治療、と言ってもよい)は、
・疾患を根治に近い状態で治すこと
・ミクロのレベルで組織侵襲を最小限にすること
・その結果、動物が生涯にわたって高いQOLを保つことができること
PLDD(経皮的レーザー椎間板除圧術)は低侵襲だが、ヘルニアの外科的摘出のほうがよりよい結果が得られる場合はそちらを選択する。そのときの傷が仮に大きくても、治らない状態で生涯を過ごすほうがよほど侵襲が大きい。(もちろんPLDDがぴったりのケースは、PLDDで治療する)
よい結果を得る方法を優先し、その中で侵襲が少なくなるよう最大の努力をする。
それが重要であると考えるようになった。
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