はりねずみ通信

2016.04.11

残したいこと

作曲家のグスタフ・マーラーは50歳で死没している。つまり今の私と同じ歳までに、あのすばらしい交響曲10曲や数多くの声楽曲を作曲しているのである。
100年後に生きる私たちに、いまでもインスピレーションを与え続けているし、おそらく数百年経ってもその瑞々しさは失われないだろうと思う。生きているあいだは、決して幸せとは言えなかったけれど、消えないものを残した人だと思う。

凡人である私は、これから彼以上の寿命を生きいるとすれば、何ができるだろうか。
私は自分が今まで手がけてきた動物に対する低侵襲治療が、より洗練された形で後世に残り、それによって動物たちが病気から救われることを望むようになった。それは、ここ数年のことである。

そう思う理由はもう一つある。それは感謝の気持ちである。
私がまだ何も足がかりがないときに、いろいろな人が支えてくれた。
特に腹腔鏡外科では、多くの医師にたくさんのことを学んだ。
実際、人間の医師が私たち獣医師に教えるメリットは、ほとんどなかったと思う。それでも、いつも些細な質問に答え、具体的な手法について誠意を持って教えてくださった。

腹腔鏡外科の世界は、いつも開かれている。学ぶ途中で私が抱いたイメージは、そういうものだった。
常に手術画像は記録に残り、自分のやっていることが白日の下にさらされる。そういう性質の手術であるためかもしれないが、内視鏡外科医たちはいつもオープンであった。外科手術の秘匿性など、まるでない。そこに魅せられた。

天才でない私ができることは、低侵襲医療の技術を学ぶことで、動物たちに負担の少ない治療ができることを多くの人に伝えることである。私が内視鏡外科に魅せられたように、たくさんの獣医師の心を動かすことができれば、動物たちに今よりよい医療ができるようになる。

幸いそういう仲間がいて、いま一歩一歩進めている。
同じ志をもつ人に出会えたことは、本当に幸せである。

100年後。
自分は影も形もなくても、情熱のようなものが残っていて、次の動物医療がすすんでいく。
そういう光景を夢見ている。

それは、いままで多くを与えてきてくれた動物たちへの恩返しになると思う。

 

 

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はろー

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