はりねずみ通信

2016.02.26

贈る言葉

この春に、当院を巣立っていくひとがいる。
若い人が、新しい出発をするのを見送るとき、私の心の中にある苦い感情が起こる。
それは、自分が巣立ったときの苦さを思い出すからである。

私たちの職業は、大学を卒業したあと、勤務医として研鑽を積むことが多い。
数年間の仕事を経て、自分で動物病院を開院したり、他の施設に移って腕を磨く。
ところが、巣立つとき、
「自分はいったい何ができるのだろう」
という不安に襲われる。
診断技術や手術手技は、何年やっても「完成」というものがない。かならず中途半端で次へ向かわなければならない。たとえるなら準備なしに崖から飛び込むようなものである。

私の場合も、勤務医の時は色々な面で思うようにいかないことが多かった。どちらかというと、「できない」という劣等感が90%くらいを占めていたと思う。

それでも巣立つことができたのは、勤務していた施設の温情があったからであろう。
それと、私にはあきれるほどの楽観と、ちょっとだけ勇気があった。
今考えても恥ずかしくなるが、あのスキル、あの心構えで動物を診療するなど考えられない蛮行であった(もう時効なので書く)。

イギリス北部に、パフィンという鳥のコロニーがある。
魚を捕獲するため、パフィンたちは目がくらむような崖のてっぺんから、海に向かって飛び立つ。私は、自分に勇気がなくなったとき、いつもこの鳥たちを思い出す。

パフィンの勇気を胸に!
これは、私から彼らに贈る言葉である。

IMG_7873
ねんいり

 

 

 

1件のコメント

  • いつかは•••そう思ってはいましたが、その日が来ると複雑です。

    角谷先生には、かない動物病院で学んだ事+「らしさ」で新しい場所でも動物と飼い主さんが楽しく幸せに暮らしていけるようにサポートしていってほしい。
    その反面、私が今居る犬達の最期の時まで悔いなく暮らせる為の生涯主治医!って思えるような獣医になっていただけに、ずっと居て欲しい。
    お知らせを見てからずっと複雑で•••

    角本さんは保定していただいた回数も多かったし、いつも笑顔。
    私が診察室に入りきる前にドアを閉められ挟まれた記憶が•••でも安心してください!根に持ってませんから(笑)

    茶豚で辛い時も角×角コンビには笑わせてもらったし最後は「ありがとう」と言いたいです。
    最後に一緒に写真でも撮って帰ろうかな( ´艸`)

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