はりねずみ通信

2016.03.21

特発性乳び胸の手術方法2

胸腔内でリンパ液が漏れるのが、乳び胸という病気である。
流れていく先の頸部静脈に入っていくあたりが、何らかの理由で交通渋滞をしているので漏れてしまう。「何らかの理由」はよくわかっていない。それで特発性乳び胸、と言われる(医学用語で「特発性」は原因不明、ということ。原因不明と言ってしまうとかっこ悪いから特発性などという表現をするのだ)

この交通渋滞の解消に役立つのが心膜切除である。
慢性的な胸腔内の炎症で、心臓を取り囲む膜はとても肥厚している。リンパ液は、リンパ管から漏れると刺激性があるのだ。この心膜肥厚が静脈圧をあげる。つまり、これから頸部の静脈に合流しようとするリンパ管の出口あたりの圧力が上がっている。それゆえ、流れが悪くなるのである。

そのため、まず心膜切除をする。
しかしそれだけでは、まだ「漏れ」は止まらないことが多いため、リンパ管が胸腔内に入っていくあたりで、胸管結紮を行う。

胸管は犬では右、猫では左を走る、と言われていた。
ところが、私が調べたところ、10%くらいの症例で、胸管は反対側を走っていた。
そして、左右を特定して結紮しても、反対側に「側副路」というバイパスができてしまう。これは新しくできるわけではなく、もともとリンパ管がそこにあり、あとで流れはじめることもわかった。

つまり、胸管は右も左も元々あり(人間に右手と左手があるように)、どちらかが優勢に流れている、というだけのことだったのである。
まさに、右利きと左利き、という感じ。

であれば、両方の胸管を同時結紮するというのが一番合理的であろう。
それを先日の手術で行ったところ、理想的な形で完遂することができた。
詳しく書くと長くなるのだが、心臓から全身に向かう大動脈を分離し、血管テープなどで上方に牽引すると、反対側の胸腔内の処置が同じ位置からできる、というのが要点である。
つまり、普通なら右胸管を結紮するには右から4本のトロッカーを入れ、左にも同じようにしなければならなかったところを、片側だけの傷で治療できる目処がついた、ということ。

・・一生懸命書くのは、この方法が確立すると、難治性の特発性乳び胸の動物が、身体に負担の少ない方法で確実に治る可能性があるから、である。

IMG_7979
しらさぎが4羽電線に止まっている、という珍しい風景

 

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