はりねずみ通信

2017.12.02

標準化

先日の講演のあとの質問で、医療の根幹に関わる(というと大げさか)ようなものがあった。
それは、「腹腔鏡のような手技を特殊技能と見なすかどうか」ということである。

動物医療では腹腔鏡手術がまだまだ普及しておらず、先日の施設でも機器類はそろえているが多くの実績はないとのことだった。
そのため、特別な訓練が必要な特殊技術である、というイメージがあるように思えた。
実際にトレーニングが必要なものであることは間違いないし、普通の手術と比べればモニターを介して2次元の世界で行う手技なので特殊、ともいえる。
けれど、ピアニストが練習なしにコンサートで演奏することがないように、命が関わる現場で準備なくできるということはないはず。
むしろピアノとの違いは、「このひとにしかできない」という世界ではなく、「多くの獣医師が普通にできるというものであるべき」ということである。

獣医医療の学会などに行くと、「これは私にしかできない手術です」というような発表がまだまだ多いように思う。
それを多くの人が行うことにするには、どういった方法論があるか、という視点が少ない。これは日本の獣医医療の特徴かもしれない。
人間の医療では、ある新しい技術が開発されると、それを普及させるために手技の「標準化」を目指す。
トレーニングを積んで、一定の手順で行えば(特殊な場合を除き)どの医師でも行えるようにようにしていく、という方向性である。
すると、行える人の母集団が増えていく。その中から、特別な能力も持った人が相当な努力をして神業のような手術を行えるようになることもある(ここの部分はコンサートピアニストと同じ)。そこだけを見て、「神の手」なんて言ってはいけない。見習うべきは、そこへ至るまでの標準化の努力のほうである。

「腹腔鏡をやっているから特別なんだ」という気持ちは、なにも生み出さない。
普通の手術であることを目指さなくてはならない。自省もこめてそう思う。

IMG_1319
はいる?

 

 

1件のコメント

  • >見習うべきは、そこへ至るまでの標準化の努力のほうである。
    知識や技術の出し惜しみをなさらない、先生のその姿勢が本当に素晴らしいと思います。
    ひいては飼い主の幸せに繋がることだと思います。

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