はりねずみ通信

2017.07.27

必死になる理由

Sさんが弱っている猫を保護したのは、1週間前とのことだった。
最初から呼吸が苦しそうだったが、だんだん悪化してきたので来院された。

レントゲンやエコー検査で、横隔膜ヘルニアと診断した。
おなかと胸の間にある横隔膜が破れ、腹部臓器が胸腔内に入り込んでいるのである。
胸腔内は陰圧なので、ここ1週間でだんだん臓器の侵入が進んだようだった。

短時間のエコー検査の時でさえ、重度に呼吸の悪化が見られたので、手術の際の血管確保や麻酔導入・挿管の手順がスムーズにいかないと致死的な状態になる。すべての準備を整え、酸素室で十分に酸素化した上で、スタートした。

導入までですべてが決まると思っているので、私も必死である。
スタッフにはプレッシャーを与えたかも。
手術は順調に進んだ。
横隔膜の一番背側が破れていて、そこから肝臓・十二指腸・膵臓・大網が陥入していた。肝葉の一部は壊死していたので肝葉切除も行う。この場所の横隔膜が裂けていたのに、すぐそばの大静脈が無事だったのは不思議でならない(だからこそ生きていたのだが)。

この猫(もう名前が決まっていて、コウメちゃんという)は、おそらく車にはねられて横隔膜ヘルニアを起こしたが、そのとき死なずに生き残った。偶然通りかかったSさんに保護された。そして動物病院へ来た。
そういった細い糸でつながったような命なのだ。

必死になるのには理由がある。冷静でなんかいられない。


術後8時間後

 

1件のコメント

  • コウメちゃんがご飯を食べてる動画を見て、胸が熱くなりました。

    Sさんに保護されて、先生とスタッフの皆様に必死で命をつないでもらって、
    本当に良かったね。
    関係ない第三者の私だけど、Sさんと病院の皆様にありがとうって言いたくなりました。

    コウメちゃん、頑張れ。

    • mocoさん、コウメちゃんは術後の経過は良好で、退院できそうです。
      本当によく頑張ったと思います(^^)

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