はりねずみ通信

2017.08.19

幸せのかたち

犬のダイちゃん(仮名)は、事故で足が傷つき、最終的に断脚術をせざるを得なくなった。
先週、術後1週目の検診では、傷もきれいに治ってる。ダイちゃんもすこぶる元気だ。
けれど、Tさんはとても悲しげな顔をして、
「かわいそうで、とても正視できないんです」
という。どうしても現状が受け入れられないのだそうだ。

私は先日、「僕はホルンを足で吹く」(フェリックス・クリーザー著、yamaha出版)という本を読んだ。
著者は先天的に両腕がないが、ホルンに魅入られ、ホルン奏者になる。
ホルンという楽器は、大きな朝顔のようなベルに、長い筒がぐるぐるつながっている。マウスピースから息を吹き込み、普通は左手の指で3本のバルブを押し音階を作る。クリーザーさんは、手の指でバルブが押せないので、足の指を使うという。
ホルンを抱えて座り、足の指でそれをしようとすると、肩の高さまで足を上げなければならない。しかも、足の指で早いパッセージを演奏するのである。

実はクリーザーさんは、アマチュアで演奏しているとき(このときには相当な腕前になっていた)、先生からこんなことを言われたのだそうだ。
「アマチュアで楽しむにはいいが、プロにはなれないと思う」
これは、この先生が冷たいのではなく、理由がある。
ホルンは左手(彼の場合は左足)だけでなく、演奏には右手も必要だから、である。
ホルンという楽器は、ベルの中に右手を突っ込み、音程や音質を調整しなければならない。
これをどうするのか・・。
私は読みながら、ずっと疑問に思っていた。
彼は先生の言葉をきっかけに「絶対にプロになる」と決めた(相当に意志の強いひとなのである)。
そして、マウスピースから吹き込む息の調整だけで、右手操作がいらない奏法を作り出したのである。
(それがどんなにすごいことか、描写できないのが残念)

彼は言う。
「腕のない生活を送ることは悲劇や喜劇ではない。それを嘆き悲しむ理由はどこにもないんだ」
むしろ周りの人間が興味本位の眼でみたり、「かわいそうだ」とレッテルを貼ることが問題なのである。

そのひとが幸せかどうか。
それは他人には決して決めることができない。幸せのかたちは、自分にしか決められない。

ダイちゃんは元気なので、辛くてもありのままの姿を受け入れてほしい、と祈る。

 

3件のコメント

  • こんにちわ

    幸せのかたち…

    今年に入り、前歯が左右一本ずつ抜けました
    4月の検診では、口臭もきにならないし、歯もきれい…と。
    その後、口元を気にしてる様子があり上顎に何かできてるのかと
    気にしていたら、前歯がすきっ歯になってて
    今は、真ん中がグラグラしてます(^^;
    9月半ばに予防接種で受診予定ですが
    抜かずに補強が出来るのなら、早めの受診も考えてますが
    何かありますか?
    痛みは、ないようでご飯もしっかりたべてます。
    前歯の抜けた我が娘をありのままと受け入れるだけでいいですか(^^;

  • どんな姿であっても
    隣でぬくもりを感じられたらどんなに幸せか…って、
    思っていただきたいです。

    • シュートの母さん、ほんとうにそう思います。
      残暑厳しいですが、お元気でお過ごしくださいね。

  • 先生、こんばんは!
    人も、物言えぬ生き物達も、幸せのかたちは
    自分にしか決めれない。。私もそう思います。
    だいちゃんも、ありのままを受け入れる・・
    生き物って素晴らしいですね!

    先生相談があります。。
    知人の知人が(あまり知らない)長期の出張でワンコの
    面倒を見る人がいなくて、私が日に一度ご飯と身の回り?の事をしています。。ダックスフントの12才の子です。
    先生の所でPLDDの手術を2度して頂いています。
    ただ、人見知りが酷く、ううっと威嚇します。
    狭い部屋で除湿を24時間かけっぱなしにしています。
    寒くないように工夫はしました。
    ただ、なんだか可哀想で・・家に連れて来ようか、否か・・?
    家に連れてきたら余計なストレスになるかな・・とも思います。
    誰もいない部屋に一匹だけ置いていても、いいのですか?
    どちらの方がワンコにとって幸せなのでしょうか??
    それと、今私自身が、広島と姫路を行き来しています。。
    今度父の49日の法要があるのですが、その時は、預かり可能でしょうか?
    人に頼むのも気を使ってしまいますので・・。

    • きなこさん、各家庭の事情や、その子の性格などによりますね。一度来院されたとき、相談しましょう。
      法要の預かりはOKですよ。

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