はりねずみ通信

2017.02.03

よりよく生きる

認知症の方が患者の会を作って活動している様子が、テレビで放映されていた。
(スコットランドの方がスタートさせたこの会は、今世界中で注目されているそうである)

認知症は、診断された時点で「もう何もできない人」というレッテルを貼られてしまう。家族や社会から孤立し、患者さんはうちひしがれる。
けれど、さまざまな生活の工夫で、できるだけ自立しながら暮らしていくことは可能だ。患者の方たちは、家族やカウンセラーの助けを借り、同じ悩みを持つもの同士で情報交換しながら前向きに生きていこうとする。
自尊心を取り戻し、「生き直そう」とする人たちの映像が、胸を打った。

患者の方の言葉が印象的だった。
「私たちは最高の生き方はできないかもしれません。けれど、よりよく生きることはだれでも可能なんです」

その人の障がいの程度により、できることは異なる。それでも、周りのちょっとした支えや、身の回りの工夫で、よりよく暮らすことはできる。
元気なときの自分は取り戻せなくても、前に進むことができる。それが患者たちの希望になっている。

動物医療でも同じだと思った。
動物が進行した病状の時、「もう何もできることはありません」と言うことほど、飼い主さんを突き放す言葉はない。たとえ元通りに治すことはできなくても、今の状態を少しでも改善することはできる。明日に命を失うかもしれない状況でも、何かできることはある。
そうやって、希望をつなぎつつ、最期まで一緒に暮らせること。それを支える者でありたい、と番組を見て思ったのだった。

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特発性乳び胸のロアちゃん、明日退院できる。

1件のコメント

  • 本日、会陰ヘルニアの手術をして頂いた、銀次郎の飼い主です。

    夕刻に面会に行き、息子の元気そうな姿を見、安堵いたしました。

    先生、本当にありがとうございました。

    甘やかして育てたせいか、メンタルが弱く、
    帰りたがって鳴いていたのが心配です。

    私は、とある病院付属の介護施設で事務をしており、
    認知症の方に接する機会も沢山あります。

    どんなに物を忘れても、ADLが下がっても、
    自我はきちんと存在しているのだと、日々感じます。
    プライドも、もちろん有ります。

    健常者にとって当然出来ることが出来なくなると、
    その人を自分と同じ立ち位置にいる人間なのだと思えなくなる人も多く、
    プロである介護士でさえもそのような状態に陥っているのではないかと思うことも有ります。
    しかし、要介護者を一人の人間として尊重し、
    敬意を持って接すると言うことを、私も含め職員皆で意識することが大事と、確認しながら仕事をしています。
    (私はそんなに立派にはできていませんが……)

    ペットとはいえ、飼い主にとっては大事な家族。
    先生のおっしゃる「よりよく暮らす」ことを尊重して下さる獣医さんが、
    沢山居られればいいなと、月並みながら感じました。

    • 銀次郎母さん、銀次郎ちゃんは今朝も落ちついた様子で過ごしていますよ。
      介護施設で働いておられるのですね。色々なことは頭では理解できていても、実際に現場で働く方はとてもたいへんだと思います。
      私も人の医療から学ぶことが最近とても多くなり、よいところを取り入れたと思っています。

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