PLDDは大きな傷をつくらない治療法ですが、椎間板中央にレーザーの高いエネルギーが照射されます。
このため、「椎間板を焼いて大丈夫か」という疑問は獣医師からも寄せられます。確かに理論的には椎間板の中心部の髄核は、脊椎の運動にとって重要な役割があります。レーザー照射によりこの髄核に変化が生じることは、なんらかの問題を引き起こす可能性も否定できません。しかし、正常な構造を壊すことは外科的手術でも起こり、その程度はPLDDのほうがはるかに小さいものです。
実際の治療例でPLDDを行ったことによる後遺症などはほとんど起こりません。これはPLDDに用いる専用のファイバーが発達したことや、適切なレーザーの照射量が確立したことによります。また、Cアームを使った椎間板中央への正確な針の穿刺により、多くの副作用はほとんどが回避できると考えられます。
ただし、そのためには施術者の技術的な裏付けが必要です。
ミニチュア・ダックスフントの椎間板の直径は1センチに満たず、厚みは1〜2ミリです。その中央に正確に針を穿刺するためには、高い技術が必要となります。
かない動物病院におけるPLDDの情報
動物におけるPLDDは新しい治療法であるため、治療効果や副作用などのデータが蓄積されていない現状があります。おそらく各施設で治療成績はさまざまであると思われるため、当院における基本的なデータをお示ししたいと思います。
治療件数 | 308件(2012年10月11日現在) |
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治療椎間板数 | 1380箇所(1頭あたり平均4.5箇所) |
治療成績
データは2012年に行われた第2回兵庫県開業獣医師会臨床研究会にて当院で発表した「椎間板ヘルニアの犬に対する経皮的レーザー椎間板除圧術の転帰および合併症:204例(2006−2011)の検討」より引用しています。
動物種のうちわけ | ミニチュア・ダックスフント89頭(44%) ウエルシュコルギー16頭(9%) その他(シェパード、ワイマラナー、雑種犬、マルチーズ、チワワ、ビーグル、シーズーなど) |
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年 齢 | 2歳〜15歳(平均7.8歳) |
体 重 | 2.0kg〜44.1kg(平均10.0kg) |
施術部位 | 916箇所(平均4.5箇所/頭、頸椎141箇所、胸腰椎769箇所、馬尾6箇所) |
治療実績の評価
治療成績は治療開始時に痛みやしびれなどの症状がある「治療群」と、まったく症状はないが今後の再発を予防するために行う「予防群」に分け、評価した。
- これらのデータをわかりやすくまとめると、以下のようになります。
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- 現在痛みや麻痺(しびれ)で症状がある犬にPLDDを行った場合、
治療後1ヵ月で93%に改善が認められる。 - これらの犬のうち、75.0%はその後の良好に経過した(平均観察期間2年2ヵ月)。
残り25.0%に再発が認められた。
再発するまでの期間は、平均1年2ヵ月後であった。 - 予防的PLDDを行った場合、椎間板ヘルニアの発生率は3.2%である。
- 副作用は3.4%で、そのほとんどは一過性のものである。
- 現在痛みや麻痺(しびれ)で症状がある犬にPLDDを行った場合、
従来、慢性経過の椎間板ヘルニア(おもにハンセンⅡ型椎間板ヘルニア)は、治療困難といわれていました。慢性経過の症状を示す動物に対して外科的にヘルニア摘出術を行った場合、もともと神経が痛んでいる状態に、手術によるさらなる侵襲が加わって症状が悪化する場合があるからです。つまり、PLDDがなかったころには、慢性経過の椎間板ヘルニアには薬以外の有効な方法が少なく、根本治療につながらないジレンマがありました。
当院のデーターでは、慢性経過の椎間板ヘルニアにPLDDを行ったのち、短期的(1ヵ月)には93%に改善が見られ、長期的(平均2年2ヵ月)には75.0%が良好に経過しました。しかし、長期に経過を観察した結果、何らかの症状が再発するケースが25.0%あります。つまり全体の1/4の動物は、せっかく治療したのに再発します。しかし、従来の方法では治療が困難であった慢性経過の椎間板ヘルニアですから、これらのデータからPLDDの有効性は明らかであると考えられます。
また、再発した25.0%の動物も、ほとんどの場合は内科的治療を行うかPLDDを再度行うことにより改善しています。
- PLDDが適している場合
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- 繰り返し椎間板ヘルニアの症状があるとき
- 疼痛や麻痺が徐々に進行する場合
- 多発性のヘルニア
- 内科的治療を一定期間行っても、改善が見られない場合
- 疼痛が強く、鎮痛剤が欠かせない場合
- 高齢であったり基礎疾患があるため、外科手術が難しいといわれたとき
- 今後椎間板ヘルニアが発生するのを予防したいとき
- PLDDが適していない場合
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- 長期間麻痺が続いていて、現在歩行できないとき
- 急に立てなくなり、ハンセンⅠ型椎間板ヘルニアと診断された場合
- MRIなどの検査で椎間板ヘルニアの突出が非常に大きな場合
椎間板ヘルニアと診断されたとき、PLDDが適しているかは症状や画像診断などによって総合的に判断します。
できるだけ早期に治療を開始する方が、よい結果を得られることが多いので、わからない場合はいつでも相談していただければと思います。