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多発性椎間板ヘルニアに対する経皮的レーザー椎間板除圧術の有用性

The effects of percutaneous laser disk decompression for multiple herniated intervertebral disks in dogs

要約 頸椎・胸腰椎に存在す多発性の椎間板ヘルニアに対し、経皮的レーザー椎間板除圧術(以下PLDD)は非常に有効である。
キーワード 椎間板ヘルニア 多発性 PLDD

はじめに
ミニチュア・ダックスフントやビーグルなどの軟骨異栄養犬種に発生するハンセンⅠ型椎間板ヘルニアに対しては、頸椎では腹側減圧術、腰椎では片側椎弓切除などが用いられ、一定の成果を上げている。ところが、近年犬の高齢化に伴いハンセンⅡ型椎間板ヘルニアが数多く診断されるようになった。これにはCTやMRIなどの画像診断の発展も寄与すると考えられる。
ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアは、複数箇所の椎間板に発生が見られることが多く、比較的高齢の犬が罹患する。軟骨異栄養犬種のみならず、さまざまな犬種で発生し、疼痛や不全麻痺などの臨床症状を示すが、その進行は比較的緩やかで、初期には内科的治療で対処されることが多い。しかしながら、徐々に臨床症状が進行したのち完全麻痺に陥るケースも多く見られ、そうなった後に何らかの外科手術によりヘルニアの摘出を行っても、改善が困難な場合がある。その理由は、慢性的に圧迫を受けてきた脊髄は変性が進み、残存する機能が少ないことが挙げられる。そのような脊髄に対し、何らかの外科的侵襲が加わると、残った脊髄機能が失われ回復不可能な麻痺に陥ることもある。このため、積極的な治療が行われない傾向にあった。
つまり、ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアは、初期から終末期に至るまで適切な外科処置が難しく、「よい治療法がない」という理由から、画像診断さえ行われないことも多かった。
我々は2006年から経皮的レーザー椎間板除圧術(以下PLDD)を用いて椎間板ヘルニアの治療・予防を行っている。その結果、従来では治療困難と思われた多発性椎間板ヘルニアに極めて有効だと考えられたため、報告する。

材料および方法
臨床経過やMRI・脊髄造影検査などからハンセンⅡ型椎間板ヘルニアと診断した犬のなかで、3ヵ所以上の椎間板ヘルニアが認められ、それらの所見が臨床症状と一致したものを多発性ヘルニアと定義した。術前術後の歩様状態が動画で記録されているもの、比較的長期経過が追えた症例のうち15例を検討した。

結果
症例1:雑種犬、13歳、オス、体重5.4kg、1年半前から間欠的な疼痛と後躯不全麻痺を繰り返し、内科的治療で治療していた。「最近後肢の力が弱くなってきた」という主訴で来院した。後肢の固有位置感覚は消失し、かろうじて歩けるものの、重度な後躯不全麻痺を呈していた。また、疼痛のため、食欲の低下や元気の消失が認められた。MRI検査を行ったところ、T12/13、T13/L1、L1/2、L2/3、L4/5に中程度から重度のハンセンⅡ型椎間板ヘルニアが多発性に存在した。同部位にPLDDを行ったところ、約2ヶ月後には歩様の改善が認められ、3年後にも同様の状態が維持された。その後も17歳で死亡するまでの間、後躯不全麻痺の臨床症状は見られなかった。
症例2:ヨークシャ・テリア、9歳、メス、体重5.4kg、数ヶ月前からの歩行困難のため来院した。継続して非ステロイド消炎鎮痛剤やステロイド剤を投薬しなければ、疼痛が緩和しないため、比較的長期間の投薬を続けていた。歩行可能ではあるが、後肢の位置感覚は低下していた。MRI検査では、C3/4、C4/5、C5/6、T12/13、T13/L1、L1/2、L2/3にハンセンⅡ型椎間板ヘルニアが認められたため、同部位にPLDDを行った。術後1ヵ月目くらいから歩様の改善や疼痛の減少が認められ、術後2年8ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例3:グランパースパニエル、8歳、去勢雄、体重32kg。1ヵ月前からの歩行困難で、他院にてCT検査を行ったところ、C3/4、L7/S1のハンセンⅡ型椎間板ヘルニアと診断された。内科的治療にて改善が認められないため、当院を受診した。甲状腺機能低下症や血栓症などの既往歴があり、クライアントは侵襲的な外科治療を希望しなかったため、PLDDを行った。治療効果を高めるため、C3/4の椎間板の2箇所(髄核と椎間板ヘルニア直下)に、合計100Jのレーザー照射を行った。術後1ヵ月目くらいから歩様の改善や疼痛の減少が認められ、術後2年8ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例4:ビーグル、7歳、オス、体重13.3kg、2日前から歩様失調が見られ、翌日四肢麻痺を呈したため紹介にて来院した。来院時には激しい頸部痛と四肢不全麻痺がみられ、横臥し、歩行は不可能であった。臨床症状よりハンセンⅠ型椎間板ヘルニアが疑われたが、脊髄造影検査にてC2/3〜C6/7に優先順位のつけ難い多発性椎間板ヘルニアが認められたため、同部位にPLDDを行った。翌日から疼痛は顕著に減少し、数日後から歩行可能になった。術後1ヵ月目頃より正常時とほぼ同じ歩様状態になった。術後2年後の現在も良好に経過している。
症例5:ボストンテリア、5歳、去勢雄、体重7.4kg、3週間前からの頸部痛と四肢不全麻痺のため来院した。ステロイドの投薬を行わないと激しい頸部痛が起こるため、主治医から継続して薬を処方されていた。四肢の固有位置感覚の低下が見られ、歩行可能ではあったが、ふらついて倒れ込む様子であった。MRI検査ではC3/4、C4/5、C5/6、T12/13、T13/L1にハンセンⅡ型椎間板ヘルニアが多発性に認められたため、同部位にPLDDを行った。術後1週間目より疼痛の減少が認められ、ステロイドなどの投薬が不要になった。歩行状態は徐々に改善し、3ヵ月目にはほぼ正常な歩行になった。術後1年目に軽度の神経学的異常を伴う歩行困難が認められたが、内科的治療で改善した。現在術後1年10ヵ月目であるが、再発なく良好に経過している。
症例6:チワワ、10歳、避妊メス、体重1.5kg。数週間前からの歩行困難と頸部痛のため来院した。MRIの結果C5/6、T13/L1にハンセン2型椎間板ヘルニアが認められたため、同部位にPLDDを行った。また、T11/12、T12/13、L1/2、L2/3、L3/4にも、予防的PLDDを行った。術後の経過は良好で、術後1年10ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例7:ミニチュア・ダックスフント、オス、12歳、体重6.6kg。前日からの急性四肢麻痺のため来院した。脊髄造影検査で、C3/4、C4/5、T11/12、T12/13、T13/L1、L1/2、L3/4に椎間板突出が認められたため、同部位にPLDDを行った。L2/3には、予防的PLDDを行った。術後の経過は良好で、1週間後には歩行可能になり、その後も良好に経過したが、初診時から1年半後、腰椎の椎間板ヘルニアの症状が再発した。そのため、腰椎に対するPLDDを再度行い、現在経過観察中である。
症例8:ミニチュア・ダックスフント、12歳、オス、体重6.8kg。1ヵ月前から歩行困難、疼痛を主訴として来院した。内科的治療で改善が認められないため、当院を受診した。脊髄造影検査ではT11〜L6の椎間板に多発性に椎間板ヘルニアが認められたため、同部位にPLDDを行った。その後良好に経過し、1年8ヵ月目の現在も良好である。
症例9:ミニチュア・ダックスフント、4歳、体重5.5kg、(経過)かろうじて歩行可能ではあるが、固有位置感覚の消失、激しい背部痛が認められた。脊髄造影検査の結果T11〜L4に多発性の椎間板突出が認められたため、同部位にPLDDを行った。特にL2/3の突出の程度が顕著だったため、同部位には髄核の照射にくわえ、ヘルニア直下にもレーザー照射を追加した。経過は良好で、術後1年7ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例10:ミニチュア・ダックスフント、7歳、体重4.7kg、(経過)かろうじて歩行可能ではあるが、固有位置感覚の消失、頸部痛が認められた。脊髄造影検査の結果C4/5、C5/6、C6/7、T13〜L4に多発性の椎間板突出が認められたため、同部位にPLDDを行った。経過は良好で、術後1年7ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例11:ミニチュア・ダックスフント、6歳、オス、体重6.2kg、3日前からの歩行困難で来院した。脊髄造影検査によりC4/5、C5/6、T12/13〜L3/4に多発性の椎間板突出が認められたため、同部位にPLDDを行った。経過は良好で、術後1年7ヵ月目の現在も良好に経過している。
症例12:ミニチュア・ダックスフント、8歳、避妊メス、体重4.4kg。グレード4の後躯麻痺のため来院した。脊髄造影検査でC5/6、C6/7、T11〜L4の椎間板突出が認められたため、同部位のPLDDを行った。1週間後に歩行可能になり、術後1年4ヵ月目の現在も良好に経過している。

考察
慢性経過のハンセンⅡ型ヘルニアは、今まで有効な治療法が少なかった。多くの場合多発性であることからや手術侵襲により神経機能が悪化することがあることなどから、積極的な外科治療は行われない傾向にあった。PLDDは複数の椎間板を非常に低侵襲に治療できるため、高齢犬や超小型犬にも有用である。多発性のハンセンⅡ型ヘルニアに対し、PLDDは最も適した手術法と思われた。

参考文献
1)胸腰部椎間板ヘルニアのミニチュア・ダックスフント120頭に対する経皮的レーザー椎間板除圧術の予防効果および合併症(2006〜2012年)、獣医麻酔外科学会2013
2)経皮的レーザー椎間板除圧術による胸腰部椎間板ヘルニアの治療成績、2012年動物臨  床医学会、ランチョンセミナー
3)椎間板ヘルニアの犬に対する経皮的レーザー椎間板除圧術の転帰および合併症204例(2006−2011)、第2回兵庫県開業獣医師会臨床研究会、2012年
4)経皮的レーザー椎間板除圧術(PLDD)が有効であった頚部椎間板ヘルニアの犬の6例、獣医神経病学会、2012年

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図1 PLDDのための機器配置

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図2 腰椎多発性ヘルニアに対するPLDD

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